パーフェクトな彼

いつも自分に自信がなく、コンプレックスがいっぱいだったアケミさん。

そんなアケミさんはある日、知人の紹介でパーフェクトな男性と出会いました。

その人は、スラッとした体型に綺麗な顔立ち、優しい言葉遣いとマナーまで兼ね備えていました。

知的だけど穏やかで、どんな話題でも会話をリードしてくれて…

何より着飾らない態度と、劣等感など一切感じられない落ち着きと余裕のある態度が魅力的でした。

アケミさんは、すぐ彼に惹かれ、彼もまたアケミさんに好意を示しました。

数回のデートを重ねた末、アケミさんはドラマの主人公のような彼と、ついに付き合うことになったのです。(パチパチ)

完璧なルックス、優しい性格、毎朝「おはよう」と欠かさず来るLINE。
これ以上望むものはないと思っていました。

しかし、ここである問題が起きたのです。

突然白馬の王子様に出会ったアケミさん、実は全く幸せじゃなかったのです。

さてこれは、なぜでしょう?

 

な、なんで私なの…?

彼との交際期間が長くなればなるほど、アケミさんは不安になっていきました。

いくら考えても、自分は彼と釣り合わないと思ったからです。

鏡を見るたびにニキビやそばかす、シワが気になり、お腹のぜい肉やO脚などあらゆる事が彼女を苦しめました。

その上アケミさんは、学歴やスペックも彼より劣っていました。これと言って彼に勝る部分が一つもなかったのです。

彼が高級なお店に連れて行ってくれたり、プレゼントをくれると、アケミさんはむしろ、自分が情けなく感じてしまったのです。

顔に出さないようにと頑張っていましたが、アケミさんはこの人を手放したくない!という焦りを感じるのと同時に、違う人に生まれ変わりたいという自己嫌悪に陥ったのです。

彼は、変わらずアケミさんのことを大切にしましたが、アケミさんはいつフラれるだろう…とずっと不安だったのです。

 

ネガティブな偏り

一体なぜアケミさんは、こんな不安に苛まれるのでしょう?

「自分に自信がないから?」
「よく言う自己肯定感ってのが低いから?」

もちろんこれも理由の一つですが、全てではありません。

不安や疑心は人間の本能でもありますから。

一般的に、ネガティブな感情はポジティブな感情よりも、ずっと強度が強く、長く続くものだと言われています。
(Baumeister et al., 2001)

また進化論的には、ネガティブな情報は、生存する上でより重要なだと言われています。

例えば、ある人が森に迷い込んだ時、大きな熊の鳴き声を聞いたとします。

この時、不安や恐れを感じない人は、すぐに死んでしまう可能性が高いですよね。

一方、不安や恐れを感じすぎてしまったら?
他の人よりも、ストレスは感じてしまうかもしれませんが、きっと寿命は長いはずです。

しかもその「少しのストレス」が、生存に影響を及ぼすと言う訳ではありませんよね。

なので私たちは、多少のストレスを感じたとしても、ポジティブな感情より、ネガティブな感情を感じるように進化したのです。

一瞬の辛さよりも、長く生き延びることの方が重要ですから。

物事をポジティブに考えるのは難しいですし、努力が必要な反面、ネガティブなことは自然に思い浮かんでしまうのもこれが原因です。

極端な例ではありますが、6,800人を対象にした大規模な心理学の実験結果を見ると、10人中9人は、自分の性格を変えたいと思っているそうです。それだけ人がネガティブな感情を抱いてしまうのは、自然なことなのです。
(Hudson and Fraley, 2016)

だから「完璧な」恋人と自分を比べて不安になることは、もしかすると当然のことなのかもしれません。

ですが、いくら本能だと言っても、ずっとストレスを感じながら生きていくのは辛いですよね。

 

専門家のアドバイス

「完璧に見えるあの人があなたを選んだのは、実は想像もしない事が理由かもしれません。」と、ヤン博士は言います。

自分が全く長所だと思っていなかった部分が、相手にとっては大きな魅力だったかもしれませんよね。

「レベルが合わない」と考えているなら、それは自分自身も相手を「どんなレベル」か格付けしていると言う事です。

相手は、あなたの長所に気づき、あなたといると幸せや癒しを感じるため、今あなたのそばにいるはずです。

それは、今までの人生で無意識のうちに作られた、内面から湧き出る何かでしょう。なので、スペックや社会的な位置とは一切関係ありません。

そんな長所を持っていることを、ぜひ誇らしく思ってください。

また、ヤン博士は自分の著書でこのように述べています。

「恋人がもしあなたの元を去ったなら、それはあなたが劣っているからではなく、あなたが昔に比べて変わってしまったからでしょう。恋愛において完璧とは、二人が昔と変わらずお互いを愛し、関心を持ち続け、辛い事があった時に慰めあえるような関係を言うのであって、それは人のことを言うのではありません。あなたも相手も不完全ですから。」

もし完璧すぎる恋人のせいで、不安になったり、相手を疑ってしまうのであれば、ぜひこの言葉を覚えておいてください。

恋愛における「完璧」とは、どちらか一人のことではなく、関係そのものを言うということを。

 


ほっとけない仏様の一言

別の話ですが、私は飼っていた犬に同じ感情を抱いたことがあります。何故犬はあんなにも人のことが好きなのでしょう?僕は、こんなに純粋で絶対的な愛情をもらう資格があるのでしょうか?