ハラスメントは社会のあらゆる所で起こるが、恋愛関係においてもよく見られる。
僕の診療室に来るのは上下関係で言うと「下」にあたる人たちで、いつも弱い立場にいる人たちだ。

Aさんは恋人と別れた後、うつ症状に悩まされ病院に来た20代の女性だった。

Aさんはとてもいい彼女だった。
いつも相手の意見と気持ちを尊重して、相手に合わせようと努力していた。
揉めそうな時は先に謝り、付き合った数年の間、1度も怒ったことはなかった。

彼女は別の会社に通う彼氏の仕事をよく手伝ってあげた。
彼氏はそれが当たり前になって、彼女に仕事を頼んで自分はその時間に遊びに出かけたりしていた。

彼氏が別の女性と浮気をしているのが発覚し、二人の関係は終わりを迎えた。
最後の最後までAさんは彼に対して怒れず、いつものように優しい彼女のままだった。

残念なことに、多くの人がAさんと同じような恋愛をしている。

そんな恋愛をしている人たちが共通して言う事が、
「最初は悪い人じゃなかった。ある瞬間から変わっちゃっただけ」だ。

これは一体どういうことだろうか?
ジキルとハイドのような二面性を持った人に惹かれやすいのだろうか?

こんなことを考えながら診療を進めていくうちに、ある違和感を感じた。

なぜなら、彼らは僕の前でもとてもいい人だからだ。

丁寧な言葉遣いはもちろんのこと、毎回予約時間よりも早めに来て待ち、僕に飲み物まで差し入れてくれることもある。そして僕の言葉を素直に聞き入れる。

前の診療が長引いて待たせてしまったり、薬の副作用が出た時でさえ不満を言わない。

むしろ笑顔で大丈夫だと言い、僕を気遣ってくれる。

「患者全員が彼らのように優しかったら…」という考えが頭をよぎるが、これは決して普通ではない、何かがある。と感じた。

そして、彼らとの関係で僕が少しずつ「上」の立場になっているのに気付いた。

他人に対する態度は関係性が変わっても同じように繰り返される。

相手を「上」に立たせてしまう彼らのいい人すぎる態度は、過去の恋愛でも診療室でも同じように現れていたのだ。

このいい人すぎる態度の正体は「いい子症候群」だ。

これを説明しようとすると、彼らはこう答える。
自分はいい人ではないと。

だが、彼らは確実にいい人だ。
家庭でも、友達関係でも、診療室でも、そして恋愛でも。

「いい子症候群」の原因は、見捨てられるんじゃないかといった不安や愛情欠乏が挙げられる。

そういった不安な感情を隠すために、彼らはいい子に振る舞わなければならなかった。

過去に原因があると指摘すると「また?」と思うかもしれないが、このような症状のほとんどが、幼少期の両親との関係に起因している。

特に親から無条件の愛を受けられなかった人に、このような症状がみられる。

今彼らの目の前にいる人は、過去に愛情を注いでくれなかった両親とは別人であるにも関わらず、いい子でいようとしてしまうのだ。

捨てられないようにいい子でいようと、相手の言うことを聞いて、相手の機嫌を伺って…相手に尽くしていく。

人は、よくしてもらうと最初は感謝をするが、それが続くとだんだん当然のことのように思ってしまう。

そうやって徐々に2人の力関係が対等から一方へ傾いていく。

他のどの関係よりも対等でなければならない恋人との関係が傾き始めれば、二人の未来がどうなるかはAさんの事例を見れば明らかだ。

このような恋愛はAさんだけでなく、Aさんと付き合った人にも悪影響を及ぼす。

常に優しく尽くしてもらうことが当たり前だった彼は、その後も恋人に尽くしてもらうことを期待するからだ。

このようにいい人すぎる人の恋愛は、自分と相手どちらの人生にとっても悪い結果をもたらしてしまう。

では、どうすればいいのか?

まず、自分があらゆる人間関係においていい人でいようと振る舞っていること、そして、自分が被害者であると同時に相手を「上」に立たせてしまっているという事実を理解することが重要だ。

その次は?
嫌な時は嫌だと、自分の感情を正直に伝える練習をしなければならない。

もちろん、いい子症候群の人にはとても難しいだろう。

恋人を怒らせるかもしれないし、嫌われるかもしれないし、自分の元を去ってしまうかもしれないと不安になってしまうだろう。

だが、絶対にそんなことはない。

なぜかって?
あなたの目の前にいる人は、過去にあなたに無関心だった人(両親)ではないから。

別人だし、全く違う関係を築いている人だ。

愛してもらおうと努力しなくても、恋人はあなたを愛してくれるから不安になる必要はないのだ。

今、付き合っている恋人に対して何も言えなかったり、言うことを聞いてばかりで「このままでいいのかな?」と少しでも思ったのなら、自分がいい人でいようとしていないか、振り返ってみる必要がある。

恋愛は相手をガッカリさせないためにするのではなく、自分自身が幸せになるためにするものだから。


<訳あり恋愛>シリーズ
精神医学の専門医が関係を築く中で深刻な問題を作り出す恋愛心理について解説します。様々なエピソードの中に、きっとあなたに必要な「気づき」があるはずです。
(編集者:キリン女子)



筆者:ドクターK

恋人との関係は対等ですか?